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私たちは、お客様のご要望を丁寧に伺いながら、そのお考えに沿う形で私たちなりの建物をご提案したいと考えています。

お話を伺っていると、互いにイメージが膨らみ、あれもこれもと要望が増えるのはよくあることです。その際、大切にしたいことは何か、プライオリティを付けて行く作業の際に、次のような性能や機能を大切に考えることが、長い目で見るとご満足いただけるものになると考えています。

 ■自然エネルギーを十分に活用する

太陽の熱や光、風など自然のエネルギーを住まいに適切に取りこんだり、防いだりするために、建物の配置や形状、窓の位置や大きさを検討することをパッシブデザインといいます。自然エネルギーの活用であるため、設備機器のように一定の温度に保つことはできませんが、自然のリズムに沿った穏やかで心地の良い環境を創ることができます。

 ●冬はぽかぽかした太陽の熱をたっぷり取り込みます

冬は太陽の熱を室内に取り込み、それをできるだけ長い時間保つことで、心地よい暖かさを確保します。
そのためには、冬に暖かさが欲しい部屋にしっかり太陽熱が入るような間取りとし、窓の位置や大きさを決めます。そして、その熱を逃さないように高い断熱気密性を持ち、かつ蓄熱できるように、熱容量の大きい素材を壁や床に用います。熱容量が大きいとは、素材に沢山の熱を蓄えることができることをいいます。熱容量の大きな素材とは、例えばコンクリートやタイルなどです。木もそれなりに熱を蓄えることができますが、タイルの熱容量は木材(ヒノキ)と比べると2倍くらいです。

 

  • 熱を蓄えるために厚いタイルを張った南側の縁側です。このタイルは、かつてINAX(現在LIXIL)で販売していたソイルセラミックというもの。これは土を焼成せずオートクレーブ (高圧蒸気養生装置)による水熱反応で固めたものです。不要になった場合は粉砕すれば土に戻るという優れもの。風合いも良く、調湿効果もありとても気に入っていたのですが、現在は販売していないことが残念です。(左写真)
  • 窓下にしつらえたタイルの床は、太陽の熱で暖められ床暖房が入っているみたいにぽかぽかします。(右写真)

●夏は灼熱の日射を遮ります 

一方、夏は太陽の熱をできるだけ室内に取り込まないようにすることで、室内が暑くならないようにします。そのためには、日射が一番入り込む窓回りの対策を考え、日射を遮るための軒や庇、日射遮蔽部材を検討します。

軒や庇の出は、季節や地域によって太陽高度が異なることを考慮し、夏の日射を遮り、冬の日射を取り込むための寸法を計画します。しかし、夏と冬とでは適した寸法は同じではありません。そこで温暖地から準寒冷地の設計においては、冬に太陽熱を取り入れることを優先した寸法を採用しています。

夏の日射遮蔽については、季節によって取り外したり巻き上げたりすることができる調整可能な外付けの部材を設置することをご提案します。外付けを採用する理由は、日射遮蔽に最も効果的だからです。室内側の日よけは、日射が一旦室内に入っているため、多くの熱を遮ることができません。

その他、庭に落葉樹を植栽することで日射の調整をする方法も有効です。

 

  • 窓の外側に設置した日射遮蔽部材。冬は巻き上げることで太陽熱を取り入れることができます。

 

  • 落葉樹は日射調整に効果的です。冬は葉を落とすため日射を遮らず、夏は葉が茂ることで室内へ差し込む日射を遮ってくれます。落葉樹は夏と冬の双方の対策が可能です。写真は我が家の杏の木です。日射調整機能の他、季節ごとに花や実も楽しんでいます。

●中間期は、心地よい風を取り込みます 

春や秋、夏の涼しい時間帯は、できるだけ涼風を室内に取り入れることができるように、地域の卓越風を考慮した位置に窓を配置し、水平方向の風の流れを考えます。また、天井が高い空間は、室温の上下温度差を利用し、低い位置と高い位置に設置した窓を開閉する換気方式(重力換気)によって、垂直方向の空気の流れを計画します。

 

  • 低い位置の地窓と高い位置の頂側窓。地窓を開け、高い位置の窓をチェーン式オペレーターで開けると、室内を流れる風を体感できます。

屋外環境に対して室内環境を上手く開いたり閉じたりすることがパッシブデザインの基本的な考え方です。中間期や夏に涼風を得るためには、庭や隣地との境界回りを整えることがとても大切です。敷地に余裕があれば積極的に樹木を植栽し庭を緑化することで、草木の蒸発散作用や木陰により周囲の気温を少し下げてくれ、室内に取り入れる涼風を生み出す助けになります。

駐車場等、地面がコンクリートで覆われていると、夏は太陽の熱を蓄えてしまい暑さが増大します。地面は土や緑地であれば、その様な状況を防ぐことができます。お手入れは大変ですが、庭の緑化は室内に取り込む風を心地よいものにしてくれます。

●自然エネルギーを存分に活用するために断熱性能を高めます

自然エネルギーを活用したパッシブデザインをより有効にするためには、躯体の断熱・気密性能がとても大切です。冬に取り込んだ太陽の暖かさを逃さないため、そして夏には熱を室内に入れないために、壁や窓、天井(屋根)の断熱性能を高めます。断熱・気密性能を高めるとは、床・壁・天井を隙間なく断熱材で包み込み、窓は高い断熱・気密性能を持つものにするということです。

断熱・気密性能を高めると、パッシブデザインを有効に働かせることができ、さらに暖冷房設備に頼り切ることがないため、暖冷房にかかる費用を少なくすることもできます。

現在、住まわれている地域に応じ、省エネルギー基準では、建物の断熱性能と日射遮蔽性能が定められています。今後、全ての新築住宅はこの基準に適合することが求められます。従って、この省エネルギー基準はあたりまえに満たす性能になります。

私たちは、新築住宅の場合、この省エネルギー基準をクリアすることはもちろんのこと、それ以上の断熱性能を予算との兼ね合いの中で提案させていただきます。一方、リフォームの場合はこの省エネルギー基準を目指すことを一つの目安として考えています。

加えて、断熱性能を評価する方法に温度を目標値とする考え方があります。室温はある程度高いのに何だか寒く感じるということはありませんか。これは壁や床の断熱性能が低く、表面温度が低いため体感温度はさほど上がらず、室温ほどの暖かさを感じられないからです。目標とする室温と壁や床の表面温度が近ければ、体感温度をあげることができます。例えば目標とする室温が20℃ならば、室内表面温度も20℃に近づくように断熱材の種類や厚さを検討します。併せて、壁体内での結露が起こらない構成を検討します。

断熱工法には、様々な方法がありますが代表的な方法は、柱の間に断熱材を充填する「充填断熱工法」と、柱や梁など軸組みの外側に断熱材を施工する「外張断熱工法」です。また、それらを組合わせより高い性能を確保できる付加断熱(充填断熱+外張断熱)工法も近年注目されています。目標とする性能とプラン二ングに合わせて工法を計画します。

断熱材の施工ではちょっとした手間をかけることが性能確保のために大切です。無理に押し込んだり、断熱材が部分的に入っていなかったり、その様な施工によって少しずつ性能が落ちていきます。基本的に断熱施工は、専門の断熱業者の方にお任せする方が良いと考えていますが、現状では大工工事の一環として実施されることが一般的です。毎日のように現場監理することはできませんが、断熱材の施工には心をくだきたいと考えています。

 

  • 左写真は、ペットボトルを再生した断熱材、パーフェクトバリアを充填断熱工法で使用した事例。右写真は、プラスチック系断熱材を使用した屋根外張断熱工法の事例です。

断熱・気密性能を確保するために特に大切なのは窓や玄関ドアの性能です。夏は窓から熱が約7割入り、冬は窓から熱が約5割逃げます。これを防ぐためにはできるだけ断熱・気密性能の高い窓を選びたいものです。ただし、性能が高ければ費用もかさみます。温暖地ならば基本的にアルミと樹脂の複合材料製のサッシにLow-E二層ガラスをご提案し、ご要望に応じてもう少し高い性能の木製サッシや樹脂サッシの窓をご提案することもあります。

 

  • 左の写真は高性能ハイブリットサッシです。アルミと樹脂のハイブリッド構造サッシ+Low-E三層ガラス(中空層アルゴンガス封入)
  • 右の写真は、アルミと樹脂のハイブリット構造でLow‐E二層ガラスです

■自然素材を積極的に活用する 

木、和紙、漆喰など自然素材を活用した空間は、風合いよく温かみがあり穏やかな感じに仕上がります。それは自然素材の持つ生命力なのではないかと思います。そして、できるだけ単一の素材でできているものの方がシンプルであり、役目を果たし廃棄される際も環境への負荷が少ないと考えています。

また、自然素材はシックハウス対策にも有効だと考えています。もちろん自然素材であれば誰でも問題ないということはありません。人によってはヒノキのにおいがダメという方もいらっしゃいます。そこは、やはりその方その方に向けた対応が大切になります。

●無垢フローリング 

床材を選ぶとき、「汚れにくいこと」「傷がつきにくいこと」「手入れが楽なこと」など色々なご要望があります。私たちがご提案する無垢フローリングは、汚れがつきやすく、傷もつくものです。でも足触りが暖かく、使い込むほどに愛着がわくそのような素材です。もちろん塗装をしてある程度保護することはできるので、塗膜を作ってしまうタイプではない、含侵させて木の呼吸を妨げないものをご提案します。

 

  • 我が家は無塗装のパイン材を自分たちで張りました(左写真)。構造用合板に釘打ちで接着剤は使いませんでした。塗装もせず、床磨きもしません。子供と私たちの足の油?だけでなんだかいい色合いになっています。

●生石灰クリーム 

生石灰クリームは漆喰の仲間です。漆喰と同様に主な材料は石灰石です。石灰石を焼いた生石灰を水につけると一気に消化が進みます。この反応が終了したものが生石灰クリームで、これが空気中の二酸化炭素と結合することによって、もとの石灰石の成分に戻って硬化します。

この生石灰クリームは、比較的扱いやすいので近年ではDIYでよく使われる素材でもあります。土佐漆喰などと比べると薄塗りですが、表面は硬く、ある程度の調湿性も確保でき、なんとも温かな仕上がりになります。壁と天井に塗ると漆喰に囲まれている感じがあり、なんだかとても安心します。

 

  • 我が家でもDIYでタナクリームという生石灰クリームを塗りました。下塗り(シーラー処理)にも化学物質が含まれていないものを探しましたが当時(2002年)は見つからず、下塗りは水湿しだけで施工しました。数年後、地震の影響もあったかと思いますが、ヘアクラックが発生しました。

●和紙 

壁や天井に和紙を張るのもすてきです。伸び縮みしないため施工上のやりにくさがありますが、ロール状になっているものもありこれは通常のクロスと同様の施工が可能です。素材としては 楮(こうぞ)や三椏(みつまた)など植物です。植物は木材に比べて成長が早く資源の有効利用としても有益ですし、化学物質は入りません。風合いはやはり温かみがあります。時間がたつごとに何ともいえない風合いがでてくるのも魅力です。

 

  • 我が家もDIYで和紙を張りました。素人工事なのでロールになっている和紙をA4サイズにカットして貼り付けました。糊は小麦をを煮てつくりました。

●柿渋

柿渋は青い未熟果を潰し、圧縮してできる液体を発酵させてつくります。柿渋は昔から防腐・抗菌などの効果が知られていました。発酵のにおいが少し気になりますが、それは抜けていきます。耐久性の点では一般的な塗料にはかないませんが、化学物質を含みませんし、木部に塗装しても塗膜をつくらず、木の呼吸を妨げません。

 

  • 外部に柿渋を使用すると少し耐水性が劣るという欠点をカバーした柿渋コートGをデッキに塗りました。嫌な臭いもしないし、塗りやすいものでした。白装束で塗っているのは蜂除けのためです。

●シックハウス対策の考え方をお伝えします 

シックハウス症候群とは、厚生労働省のHPには

「近年、住宅の高気密化などが進むに従って、建材等から発生する化学物質などによる室内空気汚染等と、それによる健康影響が指摘され、「シックハウス症候群」と呼ばれています。その症状は、目がチカチカする、鼻水、のどの乾燥、吐き気、頭痛、湿疹など人によってさまざまです。」と書かれています。

シックハウス対策に関する様々な調査をした経験から、私たちは、シックハウス症候群というのは、非常に個人差があり、同じ環境にいても発症する人としない人がいること、そして発症した方は大変な苦痛を味わうということを知りました。それなのに明確な因果関係が分かっていないという、まだ発展途上の分野であるということも知りました。

このことから、私たちは残念ながらこれなら確実にシックハウス症候群を発症しないという完璧な方法はない、という理解に立っています。

完璧な方法はありませんが、私たち設計事務所ができることは、料理人と同じく素材をきちんと吟味することだ、と考えています。つまり建材を選ぶ際に、それに何が含まれているか(主に化学物質)を確認することです。そして疑わしい材料が含まれているものは除外する。ということです。和紙や漆喰などの自然素材は比較的少ない素材で構成され、化学物質を含まないため採用することが多くなります。

  • 製品の内容物を確認するための資料としてSDS(安全データシート)という書類があります。この書類の「組成及び成分情報」の中に、私たちが除外する物質が記載されている場合はこの製品の使用を控えます。私たちが除外する物質は、厚生労働省が室内濃度指針値を定めた13物質と、新たに指針値作成を目指している3物質、加えて過去にシックハウス症候群の原因物質として挙げられた物質としています。

また、様々な物質が世の中にあり、意図的ではなく紛れ込んでしまうこともあるということから、素材を吟味するだけではなく、完成後はきちんと換気をして十分な養生期間を経てから、入居してもらうことです。ただし、養生期間をどれだけ設ければ問題ないか、ということは判断が難しいところです。建材によっては何かに覆われていて化学物質の発散がかなり緩やかに長時間行われるものもあるため、入居される方に匂いを確認していただき、不快でないければ入居をはじめてもらうことが一つの方法だろうと考えています。従ってお客様に応じて養生期間は異なるということになります。一方で実際には完成したらすぐに入居したいというご要望が一般的です。その場合は、きちんと24時間換気システムを動かしてもらうこと、こまめに窓開け換気をしてもらうことなど、引き渡し時にきちんとご説明をしたいと考えています。

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  • 新築住宅は24時間換気を動かすことが義務付けられています。換気システムは清掃などのメンテナンスをしないと機能が低下します。定期的なメンテナンスの実施を引き渡し時にご説明しています。
  • 左写真は、7年間清掃していなかった換気扇、右写真は清掃後の状態です。左の状態では性能の半分も換気できていなかったかもしれません。定期的な清掃は非常に大切なことです。

そして、建物側だけの取り組みでは不十分であることもご説明させていただきます。暮らしの中で持ち込む家具や、香りの強い洗濯洗剤、殺虫剤の類でも発症することがあります。私たちの生活は驚くほど化学物質に囲まれています。こうしたことを過度に心配する必要はないと考えていますが、少し気にしていただき、ものを選んでいただくことが大切だと考えています。