部分断熱改修の温熱環境レポート

長野県のF邸にて実施した温熱環境の実測調査。調査結果のご報告と初めて過ごした冬の暮らしに関するヒアリングに行ってきました(3月末に…行きました)。

 

部分断熱改修を行った範囲(断熱区画の内側・生活範囲内)は、非常に快適な温熱環境で暖かく過ごしやすい家になったと大変喜ばれていました。一方、手を付けなかった既存の範囲(断熱区画の外側・生活範囲外)は、外気温に近い状況でした。
この温度差ついて、クライアントは事前に了承済みでしたが、実際に体感するともっと工事範囲を広げるべきであったか…、とつぶやいていました。

実測結果をグラフにするとこのようになりました。

  • 断熱区画の内側(リビングダイニング)は暖房の効きが良くなり、帰宅時にエアコンを運転すれば30分程度で20℃以上に暖まる。生活時間帯は常に20℃以上をキープできている。(平均外気温:3.6℃、平均室温:22.3℃)
  • 帰宅時から翌朝にかけて、低出力モードで床暖房をタイマー運転しているため、リビングダイニングの室温は夜間であっても25℃前後をキープしている。
  • 晴天時は、日中の日射で暖房無しでも20℃近くまで上昇するシミュレーション結果であったが、障子を閉めているためその効果は得られていない。留守中の温度低下が8時間で10℃ほどある。(LDの区画熱損失係数 Q*:6.1W/㎡K、参考:H28年基準相当(準寒冷地)のQ*:5.5W/㎡K)
  • 断熱区画の内外の温度差は、やはり最大で20℃ほどに。冬期の座敷は、暖房無しでかつ日射取得が無いこと、今まで暖房室から漏れ出ていた熱が区画されたことで漏れ難くなったことなどにより、外気温に近づいていたと考えられる。

部分断熱改修の課題である断熱区画の内側と外側の温度差については、想定していた通りでしたが、準寒冷地であるため大きくなる傾向です。今回の場合は、大家族(延床約290㎡)の暮らし方が、時代と共に大きく変化し、2人住まいの小規模世帯が前提条件でした。この状況を踏まえると部分的な断熱改修によるプランニング(ゾーニング)は、快適な暮らしを取り戻すための現実的な改修提案だと考えました。
もちろん、区画内に生活範囲をまとめることや区画外の結露対策など注意すべき点はしっかり抑えたうえでの提案です。とは言っても…、2月上旬の最も寒い時期の実測調査でしたが、温度を見ると座敷の室温はやはり厳しいですね。まさに冬期はコンパクトに、夏期は開け放って広く使い熱がこもらない暮らし方の提案が活きてくると思いました。

また、断熱区画の内側でも暖房室と非暖房室では、多少の温度差があります。今回の調査では測定することができませんでしたが、お伺いした時にそれを体感することができました。この件は、今年の冬に再調査をお願いしてみたいと考えています。

一通りご説明した後に、断熱区画の内外で表面温度を放射温度計で測定してみました。

下表はその結果をまとめたものです。
各部位の表面温度は20℃前後の温度で、設計時に検討していた温度とほぼ同様でした。

今後は、この実測結果とエネルギー消費量の関係を見ながら、暖房機器の使用時間や運転方法などについてアドバイスさせて頂きたいと考えています。

F邸の場合は、断熱性能と耐震性能の向上、コンパクトで暮らしやすい間取りへの変更と設備機器の更新、床下の湿気対策、そして伝統的な外観意匠の維持が主なクライアントの要望でした。それらを考慮しながらコスト調整しつつ、性能をどこまで高めるかを考える、このスタディは結構悩みましたが、この実測結果を見てクライアントの要望に沿ったちょうど良い性能を見つけることができたのではないか、と思いました。
また、現在、断熱区画の外側になっている部屋については、将来的な家族の変化に合わせて取り込んで行けばよいと思います。

これからも、部分断熱改修について検討・提案を行っていきたいと考えています。

いしざき